第十一話

バタバタと駆け足で追い越される。シューズの色からして一年生の集団だ。早く帰って遊びたいのだろう、すれ違いざま肩とバックがぶつかると「すみませーん」と言ってはしゃぎながら昇降口へ消えていった。

「あ。あいつ放課後は三号館の職員室にいんのかも」
「はー?早く言えや」

ぶらぶらと手に持つのは二人揃って未提出だった化学の課題。今学期最後の提出物らしく、出さないと色々まずいらしい。
さっきは出向いた職員室には教科担当がおらず、無駄足を踏んでしまった。しかしわざわざ二号館を挟んだ三号館に行くのはめちゃくちゃ面倒くさい。

「…あっちーなクソ……」

おまけにこの長い階段は風の通りが悪く一段と暑い。裾をバサバサ扇ぐと隣の奴も同じことをしているのが目の端に映った。

「そーいや成田は?」
「今日はカテキョーが来る日だと」

ダルそうに階段を上がりながら仰木が答える。

「そっか」

人気のない廊下に出ると大学のポスターがビッシリと貼られていた。通り過ぎながらプリントされた写真を適当に流し見ていく。

「もーそんな時期かね」

三年生。受験勉強。最後の夏。ポスターは三年生に向けての物だが、二年生の中でももう本気になってるやつはやってる。時折溢れては行き場を無くすこの気持ちは焦りなのか不安なのか。

伸びた髪が首に張り付き不快指数を上げる。

「あーそうそう。俺さ、バスケ部に正式に入った」
「…」
「おい反応無し?」

無視かよと思い横を振り向くと、仰木が窓の外を見て立ち止まっていた。

「おい?」

静かに注がれる視線の先を追って下を見下ろす。そこにはジャージ姿の女子数人と、囲まれて穏やかに微笑む教師が一人いた。

ああなるほどね。彼氏がモテるとたいへーんってか。

「おい行こーぜ」
「…ん」

黒い瞳に浮かぶ微かな苛立ち。

「…」

表情こそは変わらないが明らかな苦渋の色に、思わず口が動きそうになる。

「そんなに見てるとバレちまうぞ」。

喉元ま出かかった言葉は寸でのところで飲み込んだ。

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